PSI Vol.5, No.3 February 1981 Thesis 3. pp17-40.
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物理的測定の場に投げかけられた心の蔭を説明するための新しい試論(第7報)
宮内力(日本意写協会代表幹事)
A trial theory to interpritate the mind shadow which cased upon the physical measurement.
ー 量子力学的状態収縮に関するマトリックス的研究 ー
Tsutomu Miyauchi, Secretary-General of the Association of Nengraphy in Japan
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III. 偶然とは何か
これでA.Einstein博士の客観的物理的実在が人間を離れて存在し、従ってそこには疑うべからざる必然則が厳として存在するであろうという主張は、現在の物理学者によっては広汎に否定される現状であることがおわかりになったと思う。(但し、博士の相対論自身はまだ生きていて量子論においても用いられている。)
N.Bohr、W. Heisenberg、 E. Shrödinger、 わが国では湯川博士、朝永博士など、第一線の現代物理学者によってこぞって主唱される一般的状態函数とは、それが測定されない限り「位置」も「時間」も、「運動量」も「エネルギー量」も、これという値をもたないまことに奇妙な素粒子的存在者で、しいてその間の状態をいいあらわそうとすると、それは、一定の確率分布をしめす確率密度函数の支配をうけた蓋然的な予測でいいあらわすよりほかに、それ以上規定できないしろものなのである。しかしこの一般状態函数に今観測という人間のする作用を加えると、それははかられた物理量の種類に応じて一定の固有値をさし示し、先の一般状態はこの得られた固有値に相応した固有状態に完全にうつりきってしまうので、之をさきに状態収縮とよぶと述べておいた。
さてこの章では更に一歩をすすめて、この一般状態をもちつづける素粒子状態の集りに、何回もくりかえし測定を重ねて行った場合に一つ一つの測定は個々には状態収縮を行い、夫々全くバラバラで偶然的な固有値、固有状態をもたらすが、多数回この測定を重ねるうち、全休として個々の測定固有値が一定の配列規則に従ってあらわれ出ていて、結局総体的に、あるいは統計学的に一定の統計的函数をあらわすに至るのであるという問題に入ろう。即ち個々の測定事象は全く偶然的な、その時々の勝手な値をあらわすようであるが、その個々を数多くたび重ねると全体として一定の統計的規則にしばられていることが、だんだんわかって来たのである。
即ち素粒子状態という奇妙なものを測定する場合、一回一回の測定値は全く偶然的な、何の互に連絡もない独立した事象の値としてあらわれてくるように思われている(之を以後、偶然事象とよぶ。)が、それを何百、何千回ろ重ねて行うと、全体として或一定の法則性、即ち統計的必然規則をもっていることがわかって来たのである。(必然規則にもとずいて必然的にあらわれる事象を以後必然事象とよぶ)
湯川博士がその著「観測の理論」96頁で奇しくも述べて居られるように、『現在の量子力学的世界像においては、「統計的因果法則」(必然事象的)と、「個別的偶然性」(偶然事象)とが表裏一体をなしている。従って先の猫の死を例にとった時、人および生物の運命とは“免れることのできない必然性”と“予想できない偶然性”との複雑な混合物を意味しているのであるといえる。然らば人間が“自由”とよんでいるところのものはどこから生まれるのであろうか。この問いに対して物理学者は今日まで決定的な答えを与えることが出来ないのである。しかし19世紀と20世紀ではこの問題に対する人間の態度は本質的に違って来ている。19世紀においては、物質世界は個別的因果律によってきびしく統制された、いわば一つの閉じた殼(体系、ラプラスの悪魔的発想)を
形作っていると考えられた。そこでは自由はなく、あるとすれば人間個々の主観的領域のものとしてしか存在
し得ないとされて自由が許された。 20世紀の立場では必然と自由との間に“偶然”という新しい通路がさし
まれ、この通路を通じておぼろげながら新しい脱出口がまさぐられるようになって来たことである。』と博士は述べている。
しかし、この偶然性のおぼろげ性をのりこえ、更に現代量子力学が行きづまりを露呈した状態の収縮理論を批判的に取扱って、その上にわれわれが現在、確実につかんでいる物理的物心交流現象の基礎理論をうちたてるためには現代物理がおぼろげにつかみかかった“この偶然性と必然性の表裏一体現象”並にそれが人間の
測定という作用によって固有現象化する状態収縮現象を今一歩つっこんだ形で分析しておかないと、批判的にのり越えようとしても具体性がなく、論理上の堂々めぐりに陥る危険がある。従ってこの章では現代物理がいう所の偶然事象と必然事象の表裏一体性とはどんなことか。それらはどんな形で統一したものとして捉え得るかに研究をすすめてみたいと思う。
幸いにShrödingerの猫に用いられたラジウム放射元素88Rα226のα粒子放出確率現象(いわゆるα 崩壊。電子放出はβ崩壊で、之に対してはFermiの立派な論文がある。)については、Rutherfordの1910年の研究発表。
●Po (=Rα F)(=84Rα210)のα粒子放出におけるPoisson分布。
更にはこのα粒子が核から十分離れて遠い距離に至るまでの理論的解明として
●Geiger - Nuttallの理論式 (1911年)
などの研究があるので、Shrödingerが引用した化猫理論の原典として、之らイギリスの理論物理学が到達した基礎理論について一応の吟味を試み、その上で之らの行きづまり点を指摘して、その上に第1篇で紹介した新しいマトリックス力学で救済の方途を見出そうとするのであるから、先ず物理上の理論をつぶさに知ることからはじめよう。…