PSI Vol.38,No.1 December 2016 Data 1g. pp.79-82
古琴(七絃琴)演奏 ー琴曲「流水」 遥かなる宇宙の果てへー
 琴人 飛田 立史*
 それはそれは不思議な音色でした。大自然の慈しみを感じるような・・・。
 35年前の晩春、日曜日の明け方でした。北京の留学生宿舎でようやく寝ついた頃、消し忘れのラジオからその楽器の音が流れてきたのでした・・・。
 高音は天の彼方から降り注ぎ、低音は大地の奥底から湧き上がる・・・。私がこの不思議な音を発する楽器の名が「琴(古琴、七絃琴)」といい、そしてこの時ラジオから流れていた曲の名が管平湖(1897-1967)の演奏録音による「流水」であることを知ったのは後のことです。
 琴(きん)は孔子の愛した楽器として知られ、数千年のときを経て現在も中国の知識人のあいだで演奏されています。みなさまもよくご存知の二胡が俗楽器の雄とすれば、この琴は雅楽器の代表として位置づけられ、尊ばれています。日本への初伝は奈良時代。平安時代にかけて流行し、嵯峨天皇、菅原道真らも楽しまれたそうです。日本最古の長編小説『宇津保(うつほ)物語』、漢詩集『懐風藻』に、また『源氏物語』や『とりかえばや物語』、『枕草子』などの文学作品にも「琴」「きん」「きんのこと」として登場します。
 また伝世する現物として、奈良の正倉院に『金銀平文琴』(唐・開元二十三年 735年)、東京国立博物館には現存最古の琴の楽譜『碣石調幽蘭第五』(唐代写本)、法隆寺献納宝物の『黒漆七弦琴』(唐・開元十二年 724年)が収蔵されています、その他、厳島神社、徳川美術館など各地の寺社、博物館、また個人宅にも貴重な楽器、楽譜が伝えられています。

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